災害時における介護施設の職員の適切な対応は、高齢者の命を守るためにとても重要です。この記事では、職員が安全な介護施設の運営に努め、高齢者を守るための取り組みを強化するために、介護事業者がすべき対応や具体的な手順とポイントについて解説します。事前対策や避難計画、職員の役割など、介護施設の安全確保に不可欠な知識を学びましょう。
非常災害時における介護施設職員の役割とは?
介護施設は、利用者の多くが高齢者であり、日常生活において介護が必要な状況が多く自助が困難であることから、災害が起きた際に職員の役割が大変重要になります。また、医療や福祉サービスを提供する施設であり、利用者さんの安全確保が最優先になります。
- 災害発生直後の確認作業:施設内外の安全状況や利用者の安否確認を行い、緊急時の対応を開始する。
- 利用者の避難誘導・支援:避難経路を確認し、利用者を適切な避難場所へ誘導する。その際、利用者の状況に応じた適切な避難方法と避難用具を活用。
- 連絡・報告:施設管理者や関係機関に状況報告を行い、必要な支援を求める。
- 利用者の状況把握・配慮:避難後も利用者の状況を把握し、適切なケアを提供する。また、利用者の不安を軽減し、安心感を与えるよう心がける。
ここでは、介護施設において職員が取るべき災害時の行動について解説します。
利用者の安全確保と避難サポート
災害発生時において、介護施設では利用者の安全確保が最も重要です。状況やニーズに合わせ、高齢者や障害者を含む利用者の安全を第一に考えながら、避難ができるようにしなければなりません。
職員は安全に避難できる経路や避難場所の確保を行い、災害時にスムーズな避難活動を行うことが求められます。また、利用者のみならず、職員自身の安全も守らなくてはなりません。利用者・職員の安全を確保しつつ、施設内に逃げ遅れがないかを確認しながら、迅速な避難が求められます。
さらに、地域や利用者さんの家族と連携し、避難サポートを円滑に行えるよう事前に準備しておくことも大切です。これによって、災害時の対応力を高め、利用者さんの命と安全を守ることができます。
利用者の応急処置と体調管理
地震や火災によって負傷者が出てしまった場合は、医療従事者の指示のもとで適切な応急処置を行い、ケガの悪化を防ぎましょう。高齢であったり障害がある場合、自身でケガの判断や処置ができない場合が多いので、職員による適切な判断と対応が命に直結するとも言えます。また、避難生活においては、食事から排せつのサポート・薬の確保などの日々の利用者の体調管理も、職員の大切な役割です。
二次災害防止のための対策
地震や津波においては、余震や第二波など再び災害が発生するリスクが高いことも知られています。施設内に留まる場合は、火の元を確認したり出口を確保するなどすぐに避難ができる状況にして、逃げ遅れやさらなる怪我などの二次災害から利用者を守る対策をしましょう。
防災備蓄品の確保
施設内の防災備蓄品を確保し、いつでも利用できる状態にしておきましょう。避難施設に移る場合は、防災備蓄品を持ち出す必要があります。水や保存食、防寒用の毛布、タオルやマスク・ウェットティッシュなどの衛生用品、救急箱、簡易トイレなど、避難生活に必要なものを確保しましょう。
医療機器の動作確認
介護施設では、医療機器が必要な利用者さんも多く在籍しています。そのため、災害時には非常用の電源確保と医療機器の動作確認が必須になります。服用必須の薬がある利用者さんもいるため、各利用者さん毎の避難に必要なアイテムを洗い出しておきましょう。
家族への情報共有
災害対応において、連絡体制の確立と利用者家族への情報共有は欠かせません。すみやかな情報伝達により混乱を防止し、人命を守るための適切な対応が可能になります。事前に緊急連絡網を作成し、災害時は利用者家族へ連絡します。電話やSNSなどを活用し、必要な情報を迅速に伝えられるようにしましょう。災害時は通信が遮断されることも十分考えられます。複数の連絡手段を用いて、利用者家族と連携が取れるようにしておきましょう。
行政や医療機関と連携する
利用者の安全を守るために、地域や行政、医療機関との連携を強化し災害対策に共同で取り組みましょう。特に、医療の助けを必要としている方が多い介護施設では、医療機関と連携することで適切な処置を施しやすくなります。利用者の健康状態に配慮しながら、災害関連死に対するリスクを軽減させる取り組みを積極的に行いましょう。
介護施設ができる事前の防災対策とは?
ここでは、介護施設でできる事前の防災対策を解説します。普段から災害時に備えて対策することで、実際の運用時に混乱せずに実行することが可能になります。以下、災害時の職員対応と併せて確認し実践しましょう。
防災マニュアルの作成
防災マニュアルは、地震や津波、火災などの災害発生時に迅速かつ適切な行動が取れるよう、事前に必要な対策や手順をまとめた資料のことです。介護施設内で起こりうる災害リスクを想定しながら、事前にマニュアルを作成しておきましょう。マニュアルは、以下のポイントを押さえて作成することをおすすめします。
ステップ1:災害時の組織での役割分担を明確にする
災害時に迅速かつ効果的に行動できるように、各メンバーの役割と責任を明確にしましょう。シフト制の場合は、非番職員が避難サポートに対応できるか否かなども備考として記載しておくと良いでしょう。
ステップ2:情報収集
災害発生時に、何の情報をどのように収集すべきか、またその情報の判断基準なども明確に決めておきましょう。
ステップ3:緊急連絡網の作成
災害時に活用する緊急連絡網を作成しましょう。ライフライン窓口、医療機関や行政の連絡先も明記しておきましょう。
ステップ4:初期対応、避難
利用者、従業員の安全を確保できるように、あらゆる災害パターンを想定し適切な避難経路・避難場所を決定し、防災マニュアルに明記しましょう。
ステップ5:定期的なマニュアルの見直しと更新
防災マニュアルや行動計画は、定期的な見直しと更新をしましょう。備蓄リストや災害リスクに対する対策方法は時間の経過と共に変化するため、地域や組織の状況に応じて内容を見直し、改善点があれば都度修正しましょう。
避難経路の確保と避難場所の選定
介護施設では、災害発生時に高齢者の安全を確保するため、あらかじめ避難経路を設定し定期的に防災訓練を行いましょう。介護施設には歩行が困難な方や車椅子移動の方なども多いので、そのような状況下でも安全に避難ができるような避難経路を決め、周知徹底することが大切です。
まず、施設の状況や地域の特性を考慮し、適切な避難場所を選定する必要があります。選定した避難場所は、職員と利用者が容易に避難できる場所が望ましいです。また、避難経路の確保には、定期的な避難訓練と地図を使った経路確認が大切です。避難経路は障害物のない状態を維持し、職員は避難方法や経路についてリハーサルを行いましょう。さらに、避難経路や避難場所の情報を防災マニュアルに記載しましょう。
定期的な防災訓練の実施
避難訓練では、利用者と職員が連携して適切な避難行動を取ることが求められます。可能であれば、地域や行政と連携した訓練の実施が望ましいでしょう。具体的には、火災や地震を想定した避難経路の確認や、避難場所への移動方法を練習します。
また、訓練の際には、非常用持ち出し品や医療機器の使用方法を確認することも重要です。訓練実施にあたっては、職員が避難計画を適切に運用できるように、状況判断力や行動力を磨くことも求められます。
緊急連絡体制の整備と確認
緊急時においては、迅速かつ適切な情報共有が求められます。そのため、事前に緊急連絡網の整備と確認を行いましょう。職員間、行政との連絡網の構築や、電話連絡手順の確認、利用者家族との連絡手段も整備し、定期的に確認、最新情報に更新しておきましょう。
防災備蓄品の備えと管理
災害時に活用できる防災備蓄品は十分備えて管理しましょう。備蓄品には、食料、飲料水、衛生用品、簡易トイレ、オムツや医薬品など、利用者の状況とニーズに合わせて買い揃えておくと良いでしょう。保存食や飲料水などは保管期限も把握し、期限切れにならないように適切に管理しましょう。もし管理が難しい場合は、防災備蓄サービスを提供する会社に委託するのも1つの方法です。
また、適切な避難を行うための避難用具も忘れずに常備しましょう。防災マップや非常用持ち出し袋(非常袋)だけでなく、高齢者や障害者が利用する車いすやストレッチャーなどの避難用具も防災備蓄品として管理し、定期的に点検を行うことが望ましいです。
BCPを策定する
BCP(事業継続計画)とは、Business Continuity Planの頭文字をとった言葉で、企業や組織が自然災害や感染症蔓延などの緊急事態に直面した際に、最小限の損害にとどめながら業務を継続・運営するための事業計画のことです。2021年の介護報酬改定により、すべての介護事業者に対して、2024年4月までにBCPの策定、訓練が義務化されました。
介護事業者には、災害やパンデミック発生時であっても利用者の人命を守り、必要な介護サービスを提供することが求められています。介護事業を継続して提供できる運営体制にするために、防災対策の基本方針などをふまえた計画書を策定し、災害時でも利用者が安心安全に過ごせるようにしましょう。
スタッフと利用者、ご家族の防災意識向上の推進
介護施設における災害対策は、スタッフや利用者、利用者家族の意識向上が大切です。地域の防災ワークショップや研修に参加し、スタッフや利用者の防災意識を高めましょう。また、利用者家族に対しても、避難計画の説明や防災に関する情報提供を定期的に発信し、家族間での連絡体制や避難方法についての理解を深めることが求められます。このような取り組みを通じて介護施設全体での防災意識が向上し、災害発生時の適切な対応につながることが期待できます。
地域社会との協力体制の構築
介護施設は、地域社会と連携し協力体制を構築することが求められます。災害時に迅速かつ適切な支援を受けるためにも、近隣の医療機関や福祉施設との連携を図り、災害時の相互支援について協議したり、地域住民や自治体との情報共有や協力関係を確立しましょう。
また、地域の防災訓練に積極的に参加し、地域住民との交流を深めることで、協力体制をより強固にすることができます。
まとめ:事前にできる防災対策を万全に
災害はいつ起こるか予測ができません。介護施設においては、職員はもちろんのこと、利用者の命や安全確保が最優先になります。防災備蓄を行う、マニュアルを作成し周知徹底する、定期的な避難訓練を行うなど、施設全体で事前にできる対策を行いましょう。職員一人一人が役割と責任を認識することで、災害時のスムーズな対応が可能になり、利用者の安全にもつながるでしょう。大切な命を守るために、日頃から防災対策への意識を高めることが大切です。