世界的にも災害が多発する日本では、近年地震や台風、津波などの自然災害による被害が大きくなっています。災害時でも従業員の安全を守り、企業活動を継続するためにも、企業の防災対策はなくてはならないものとなっています。この記事では、企業防災の意味や取り組むべき理由、具体的な防災への対策や事例を解説します。
企業防災とは?
企業防災とは、災害発生時にその経営資源を守り、事業活動を継続・復旧させることを目的とした事前の災害対策のことです。災害はいつどこで発生するか分からず、地震や津波、洪水などの自然災害が企業の事業活動に大きな影響を与える可能性があります。企業防災は、事業活動の継続のために不可欠であり、さらには企業の社会的責任を果たす意味でも重要な取り組みとされています。
企業防災には、「防災対策」と「事業継続」の大きく2つの取り組みがあります。防災対策はヒトとモノの安全確保であり、従来の企業防災活動にもあるような災害発生前の被害軽減や影響回避への備え、そして発災時の対応への備えを行います。一方、事業継続対策は顧客への供給を継続する経営戦略であり、防災対策に加えて災害発生後の復旧への備えを行います。
具体的な対策としては、
発災前:建物の耐震化、代替ルート確保、従業員の避難訓練、防災備蓄品の確保、
BCP(事業継続計画)策定
発災時:安否確認、被害把握、帰宅困難者の発生防止
発災後:事業継続対応手順、サプライチェーン対策
などがあります。また、地域に根ざした活動として、地域住民との連携や地域防災計画への参画、地域自治体との災害時支援協定、地域の災害救援支援なども求められています。
企業防災に取り組むべき理由
ここでは、企業防災に取り組む背景やその理由を解説します。
企業防災が求められる背景
災害によって事業が停滞すると売上や利益に影響が出て、顧客へのサービス低下や取引先の信用を失う可能性があります。2011年の東日本大震災では、中小企業が甚大な被害を受け、取引を行う大手企業にも多大なる影響がありました。この経験から、従来の防災対策の見直しが急がれ、BCP(事業継続計画)策定をふまえた対策が企業防災に求められるようになりました。
BCPとは、災害などの不測の事態が発生しても重要な業務を中断させない、又は中断しても可能な限り短期間で復旧させるための方針、体制及び手順等を示した「行動計画」のことです。
企業の社会的責任を果たすため
企業の社会的責任として、従業員やその家族、顧客や地域住民の安全を確保することが求められます。災害発生に備えることは、信頼性や地域への貢献度が高まり、災害時の損失の軽減や事業継続の確保、企業価値の向上につながります。そして、これらの防災活動を適切に実行することで、企業は持続可能な成長を目指すことができるのです。
法的責任と安全配慮義務
企業は、従業員や顧客、取引先などに対して法的責任を負っています。労働契約法第5条における安全配慮義務とは、企業が他者の安全に配慮し、危険を防止するための適切な措置を講じる義務です。災害時に企業の不備が原因で被害が拡大すれば、関係先から法的責任を問われる可能性もあります。実際に、2011年の東日本大震災による津波によって命を落とした銀行職員に対して、裁判で企業側の安全配慮義務違反について責任の是非が問われました*。このように、企業が法的責任や安全配慮義務を果たすためにも、適切な企業防災対策が求められています。
*銀行側の具体的な安全配慮義務違反の事実は認めず。しかし、自然災害発生時においても正社員、アルバイト、派遣に対しての安全配慮義務が存在することについては明確に認める。
企業防災の具体的な対策とポイント
企業防災の取り組みは、計画段階から実際の訓練・教育まで、さまざまな要素で構成されます。
リスクアセスメントの実施
企業防災の最初のステップは、自社にどのようなリスクが存在するかを洗い出し、明確にすることです。地理的条件、業界特有のリスク、サプライチェーンの脆弱性などを考慮しリスクアセスメントを実施します。これにより、災害が発生した際の影響を予測し、それに対する対策を計画することが可能になります。
BCPを策定する
洗い出したリスクを基にBCPを策定します。この行動計画には、災害時における重要業務の優先順位、代替手段の確保、従業員の役割分担、コミュニケーション手段、サプライチェーンの確保などが含まれます。
BCP策定のポイントは、まず「事業継続に対する基本方針を明確化」します。例えば、「人命を最優先とする」「重要顧客に対する供給責任を果たす」などが挙げられます。次に、「事業中断による影響、想定事象やそれに伴うリスク」を想定します。大規模地震においては、一定期間、ライフラインや交通の制約があることも踏まえた計画が必要です。
緊急時対応マニュアルの作成
BCP策定に加えて、緊急時対応マニュアルを作成することが重要です。これは、災害が発生した瞬間からの対応手順を詳細に記したもので、実際に実行可能な内容にすることがポイントです。マニュアルには、避難経路の確保、定期的な避難訓練の実施、緊急連絡網の整備などが含まれます。作成後は従業員全員が理解できるように周知を徹底し、定期的に内容を見直し更新することが大切です。
防災マニュアルは忘れてしまうことも想定し、カードタイプにして携帯できるようにしたり、PDFデータ等で手軽に閲覧できるようするのもおすすめです。
防災備蓄品の用意
災害時に備え、社内に防災備蓄品を用意しておきましょう。災害時に最優先すべきは、従業員の人命・安全です。適切な備蓄品を用意することで、避難や救助活動を円滑に行い、従業員の安全を確保することができます。帰宅困難者が出ることも想定し、水や簡易トイレ、防寒用のブランケット、非常食などを最低3日から1週間分の備蓄を用意しましょう。そして、救急箱や懐中電灯、ラジオやバッテリー、ヘルメット、マスク、タオルなども揃えておくと良いでしょう。この際、従業員全員が必要とする量を確保する必要があります。パートタイムや派遣社員、来訪者なども考慮に入れ、ニーズ毎に十分な量を備蓄しましょう。
これらの備蓄品は、安全で取り出しやすい場所に保管します。また、定期的な点検と消費期限の管理を行い、適切に管理することが求められます。もし自社でリソースがない場合は、防災備蓄品の調達・管理からスペースのアレンジまでをワンストップで対応してくれるサービスを活用するのもおすすめです。
従業員の教育と訓練の実施
企業防災は、単に計画を策定するだけでなく、従業員の教育と訓練が不可欠です。定期的な防災訓練を行い、緊急時における適切な行動を従業員全員が身につけるようにしましょう。また、新入社員や異動者に対しても防災教育を実施し、全従業員が防災意識を持つことが重要です。
防災訓練は企業内で定期的に実施し、見直しや更新を行います。消防署や自治体などの地域の防災訓練に積極的に参加したり、防災のプロを招いて研修会を実施したりと、自社内に留まらない防災教育も有効です。
サプライチェーンの強化
サプライチェーンとは、製品やサービスが最終的に顧客に届けられるまでの一連のプロセスを指し、原材料の調達、生産、物流、販売などさまざまな企業や組織が関わります。この過程のいずれかが途絶えると、企業全体の運営に重大な影響が及ぶ可能性があるため、サプライチェーンの強化は企業防災において重要な役割を果たします。
防災対策としては、複数の供給元や代替供給ルートの確保、パートナー企業との連携強化を行い共通の防災計画やリスク管理プロセス策定の実施することで、サプライチェーンの耐性を向上させることができます。
安否確認システムの整備
災害時におけるコミュニケーション手段の確保として、安否確認システムの整備は特に重要です。災害時は電話やインターネット回線が使えない状況を想定し、代替手段を準備しておく必要があります。コロナ禍以降は在宅勤務が推奨され、必ずしもオフィスに出勤している状況ではなくなってきました。どこにいても安否確認ができるシステムを導入し、緊急時に迅速に全員の安全を確認できるようにしましょう。
安否確認システムは、メール、SMS、電話やアプリなどさまざまな通信手段を使って従業員と連絡を取ることができます。また、即時対応機能があり、災害発生時は迅速に通知を送ることができます。また、リアルタイムで集計とレポート結果が確認できるので、管理者が即座に状況を把握できることもメリットです。
建物の耐震化と設備・システムのバックアップ強化
企業のオフィスや施設の耐震化は、地震対策の基本です。日本においては、巨大地震のリスクが高まり、いつ地震が起きてもおかしくない状況が続いているため、企業の耐震対策は不可欠です。
オフィスの建物が古い場合は耐震補強工事を行ったり、場合によっては新しい耐震基準を満たした建物に移転することも検討できると良いでしょう。また、家具の転倒防止対策を行い、被害を抑える取り組みを行いましょう。また、重要な設備やシステムが被害を受けないようにサーバールームの防災対策を強化したり、データのバックアップを定期的に行い適切な場所に保管するなどの対策が必要です。
リスク管理
災害が企業に与える経済的影響を最小限に抑えるために、金融リスク管理も重要です。例えば、適切な保険に加入しておくことで、災害による損害を補償することができます。また、非常時の資金確保手段を検討し、事前に準備しておくこともリスク管理の一環です。
継続的な見直しと改善
企業防災は一度計画を立てて終わりではなく、継続的に見直しと改善を行うことが必要です。災害の発生や防災技術の進展に応じて、計画や対策を更新し、常に最新の状態を保しましょう。そして、定期的な訓練やシミュレーションを行い、計画の実効性を確認するとともに、改善点を洗い出して適宜対応することが望ましいです。
国内の企業防災の取り組み事例
<事例1>
ある国内自動車メーカーは、2011年の東日本大震災を教訓に、BCPを大幅に強化しました。主な取り組みとして、サプライチェーン全体の脆弱性を見直し、重要な部品の複数の供給源を確保することでリスクを分散しました。また、サプライヤーとの密な情報共有と連携を強化し、災害時でも迅速に対応できる体制を整えています。さらに、全社的にBCPを策定し、各事業部門ごとに災害時の対応方針や手順を明確にし、定期的な避難訓練等もおこなっています。
<事例2>
全国に店舗を展開するコンビニエンスストアチェーンは、災害時には地域のライフラインとして重要な役割を果たしています。特に、東日本大震災以降、店舗運営と物流システムの強化を図り、企業防災に積極的に取り組んできました。
具体的には、地域のライフラインを守るため、安全確保を前提に営業継続と早期の営業再開に努め、災害対応型店舗を全国に展開しています。本部も商品供給や人員の応援などで店舗をサポートし、社会インフラとしての役割を果たしています。また、災害時には自治体などからの要請に基づき支援物資を提供するとともに、帰宅困難者に対しては水道水、トイレ、道路情報などを提供するなど、災害時の地域救護活動を積極的に進めています。
地域と企業の連携による防災活動事例
地域と企業が連携して防災活動を行うことも、企業防災において重要な対策といえます。企業から得られる資源や人材を活用し地域一体となって防災活動を推進することで、地域と企業が共に安全で安心な環境を作り上げることにつながり、企業にとっても事業の継続性や地域社会への貢献を高めることができるメリットがあります。
事例として、地域と企業が協力して避難所の整備や避難計画の策定を行っているケースがあります。また、企業が地域に自社のBCPノウハウを提供し、地域の防災力を向上させる取り組みを行う活動や、企業が地域の防災イベントやセミナーに協力し防災意識の向上や情報交換の場を提供するなどの活動もあります。このような防災への推進活動によって、地域と企業の防災力がさらに強化され、災害時でも迅速かつ効率的な対応が可能となるでしょう。
まとめ:自社にとって最善の企業防災対策を
企業が防災対策を行うことで、災害が発生した場合でも迅速かつ適切な対応ができるようになり、被害の最小限化や事業継続の確保が可能となります。さらに、地域や自治体との連携することで、経済活動や社会全体の安定にも貢献でき、企業イメージの向上につながります。
災害が多発する現代において、企業防災の取り組みは不可欠です。ぜひ自社の防災対策を見直し、自社にとって最善の企業防災対策に取り組みましょう。